【接客業から始まった人生:第3話】適当な先輩の存在

そこの職場は他のバイト先と何かが違った。

そう、それはある一人の先輩の存在。

いつもどこか気怠そうな顔で、話の半分が適当な嘘という、倫理観を前世に置き忘れた先輩。

チーフに対しての言動も対応も適当。

だけど新入社員(入社半年)

お客様からのクレーム対応を全力スマイルで納めた直後は、笑顔のままで「クソが……」って言いながらネギを刻む先輩。

なのに仕事ができるし、人当たりも良いからみんなに愛される存在でした。

もしかしたら社会人のファーストコンタクトが彼だったから私の仕事観がバグっているのかもしれません。

そんな面白人間な先輩とペアで仕事をすることが多かった私。

バイトの私にも他の社員の方と変わることのない適当な対応をしてくれる先輩。

それまでは「仕事中は気を抜いちゃいけない」「小さなミスでも怒られる」という思いから仕事を楽しむ余裕はほとんどありませんでした。

気を張らなくて良い先輩とのバイト時間は心地良いものでした。

そんな先輩も一年たったころには、転職することに……(早くね?)

正直寂しかった。

寂しかったから、シフトには入ってなかったけど最終日にサプライズで顔を出すことに。

誰にも言わず、そっとお店の閉店時間に入り込んだ私。

「居るの知ってるでー」

サプライズもクソもありませんでした。

クソが。

「来ると思ったわー」

と、そこには倫理感を失った代わりに第六感を磨き上げた先輩がいつもの笑顔で立っていました。

他愛もない話を少ししたら、いつもと変わらない様子で締め作業を始める先輩。

(最後の日だけどいつもと変わらんなぁ)

と、私はどことなく、その飄々とした姿がカッコいいなぁと思っていました。

締め作業が終わって、事務所に帰ると、先輩に笑って話しかける人もいれば、泣いて話しかけれない人もいた。

でも無関心な人は一人もいない。

そんな風景を見ながら、

ああ、仕事仲間っていいもんなんだな。働くのって楽しいんだな。

ふと、そんな風に感じた私。

きっと今でも仕事が嫌いと思わないでいられるのは、その時の記憶が心の底にあるからなんだと思います。

ありがとう、適当キングな先輩。

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