【接客業から始まった人生:第5話】初めて任された出展

アルバイトから社員に変わった最初の冬休み。

毎年この時期は、普段倉庫で使っている場所を綺麗にして臨時店舗をだしている。

それが何を血迷ってしまわれたのか、チーフは私を今年の責任者に指名してくださった。

任された嬉しさ半分、何すりゃいいの半分状態な私。

前年の売上データや、準備物リストを丁寧に教えてくれるチーフ。

聞いた直後は「あ、いけるいける大丈夫」と思う。が、そこはポンコツな私。

開店当日は手落ちがあるのではないかと心臓バクバク。

しかも接客から仕込み、提供、レジ精算、補充まで全てオンオペ。

「ヘルプに誰か入ってもらう?」

と、優しいチーフは聞いてくれたのに

「今日寒いから大丈夫です!」

と、意味不明な発言とともに丁重にお断り。

ひとまず、お客様が来る前に、おでんを温める火をガタガタしながら眺めて心を落ち着かせる私。

ひとり、また一人と、来始めるお客様。

いざ始まってしまえば割と大丈夫なもので、接客をしているうちに楽しくなってくる。

(過去一番の売上出して褒めてもらうぜ!)

と、息巻く余裕を垣間見せる私。

そして、迎えた閉店時間。

さぁ……レジ君よ……

今日の私の頑張りがどうだったか結果発表したまえ……!

…………

………

……

「レジマイナス……五千円……だと……」

売上がどうとかの問題じゃない。

がくがくぶるぶるが止まらない私。

そこらじゅうを探すが、五千円札なんてどこにもない。

途方にくれる。

あまりにも帰ってこない私を心配してチーフが様子を見に来てくれた。

「どしたの?締め作業手伝おうか?」

「あ、すみません、給料天引きってできるんでしたっけ?」

色々と説明をすっとばかしてチーフへ質問を投げつける私。

「まてまて、どうした」

半笑いで事情を聞いてくれたチーフは、流石の経験則からレジスタート時に設定した入金設定が間違えていたことに、いとも容易く気付き問題解決。

かっけぇっすチーフ。

まじ、かっけぇっすチーフ。

と、テンションがジェットコースターの如く上がり下がりした1日を終え、何とか臨時店舗デビューは終了。

この時のやり切ったという小さな体験が今の人生に大きく関わっている。

人間、ちょっと自分には難しいかも、って少し不安に感じるくらいのことに立ち向かうことが大切なんだろうなぁ、と今なら思える素敵な体験でした。

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